日本の麻栽培の現状

 麻の栽培/精麻加工技術が途絶えようとしております

 

 古来より戦前まで、麻は日本人の生活/文化を支える天然素材として、全国津々浦々で栽培され利用されてきました。1934年に全国で約一万ha以上栽培されていた麻は、戦後、化学繊維との競合、GHQの意向により施行された法令(大麻取締規則⇒大麻取締法)、世間の誤解(麻に対する間違った認識)等により減少の一途をたどり、現在僅か5ha程、都道府県知事から許可を受けた大麻栽培者は全国で33名(平成28年)となっております。現在、国産の麻は栃木県が最大の栽培地でそのシェアは50%を超え、精麻用の麻に限っていえばその90%以上が栃木産となっております。その栃木でさえ、夏場の収穫作業のたいへんさ、精麻加工の手間/要求される技術高さ等々あり、担い手の確保が難しく深刻な高齢化が進んでおります。その数わずか13名ほど。その為、神道/神事に不可欠な精麻は年々高騰し、外国産の精麻、もしくは化学繊維の模造品に取って代わられつつあります。
 

 

精麻(繊維取得)向けの麻の栽培が、薬物乱用に繋がる恐れはありません

 

 他の植物同様、大麻草にも様々な品種があります。そもそも日本の在来種の麻に陶酔/薬理成分は微量しか含まれておりません。特に現在日本で主に栽培されている、繊維取得用の大麻草(品種名:トチギシロ)に薬理成分はほとんど含まれておらず、薬物乱用につながる恐れはありません。栃木県では他の農作物と同様、防護柵なしに栽培されております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伊勢麻」の安全・安心な仕組み

 ~「伊勢麻」は協会の厳密な管理のもと栽培を行います~

 

①薬物として利用できない品種の麻を栽培します。

②県による薬理成分のチェックを毎年受けております。

③地域、関係機関との連絡を密にし、盗難防止策の充実を図ります。

 

*薬理成分を含まない品種の麻であっても、大麻取締法により栽培は規制され、許可なく栽培又は所持すると厳罰に処されます。

 

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2017年春の栽培開始をめざし、麻栽培の本場栃木に研修生を派遣しております

 

「伊勢麻」振興協会は、三重県中南勢地域で2年後(2017年2月)の栽培開始を目指し、現在、栃木県鹿沼市の麻農家、大森由久さんのもとに研修生を派遣しております。大森さんは、麻栽培面積/精麻加工技術ともに日本一の麻農家であり、農業の六次産業化の実践においてもパイオニア的存在です。又、麻に関する伝統文化・生活文化の伝承並びに麻の産業を目的にした「日本麻振興協会」の会長でもあります。厳しくも温かい大森会長のもと、今年2月より当協会から派遣された2名(夫婦)が、日々、麻の栽培/精麻加工の技術習得に励んでおります。*この研修は国の新規就農者支援助成金(準備型)を受けております。

 

追伸:2018年  栽培免許取得。県内に二社の神社に「伊勢麻」を奉納

   2019年 栽培免許取得。現在、栽培中。

栃木の麻農家の一年

 

 栃木県の麻(野州麻)の栽培、精麻加工につきましては、以下にまとめましたのでご参照ください。麻という植物が、他の作物同様「一つの農作物」であることを感じて頂けると思います。

 

*このページは、大麻繊維研究家/大麻博物館館長 高安淳一様より提供頂きました写真、資料を参考に作成いたしました。高安様の御厚意に感謝申し上げます。栃木県の麻栽培の概要については『栃木県の大麻畑 大麻農業見学ガイド』(著:高安淳一)で知ることができます。美しい写真とわかりやすい文章でまとめられたお勧めの好著です。(大麻博物館、もしくは本協会HPでも購入可能です)

種 蒔

 

種蒔は、桜の開花頃におこなわれます。

 

明治15年に発明された潘種器(はしき)により、種を均等且つ過密に蒔くことが可能になり生産性が大きく向上しました。

土掛け

 

 種を蒔いた後、すぐに土を掛けます。摺り足で延々と土をかけていくたいへんな作業です。

 

 繊維質の多い麻は獣害には強い作物ですが、種を食べにくる鳥(鳥害)の対策が必要です。

麻掻き/麻さくり(中耕:4月中旬頃)

 

 種まき後20日ほど立った頃に、除草と土寄せを行います。丈が4~5cm頃に行う作業を一番掻き、40日程たち10cm~20cm程に成長してから行う作業を二番掻きと言います。さらに成長したのちに三番掻きを行う場合もあります。

 

 

 6月頃に「クズ抜き」といわれる間引きの作業を行い収穫を待ちます。

 

 左下の写真は青々と繁った麻畑の横を通学する小学生。麻は小学校の校章のデザインになり、又校歌のなかでも歌われております。

 

収穫(7月中旬~8月上旬)

 

いよいよ収穫です。

 

 真夏の作業なのでとてもたいへんです。(そもそもトチギシロは薬理成分が殆ど含まれておりませんが)この時期の麻に薬理成分が濃い部分(雌花)はほとんどなく又成熟しておりません。種を取る為の麻以外は全てこの時期に収穫してしまいます。

 

麻切り(オキリ)
 現在では刃物(バインダー等)で切って刈り取ることもありますが、基本的に刃物を使わず引き抜くことから根を切り落とすまでを「麻切り(オキリ)」と呼んでいます。

 

葉打ち(ハブチ)

 麻切り包丁と呼ばれる刃先が細くなった刃渡り50cm

あまりある刀のような刃物で大麻の葉を落とします。

刀鍛冶に鍛えてもらうことが多かったそうで、

刃紋の見事なものも少なくありません。

道具一つとっても、日本人の物作りへの想いが

伝わってきます。

生麻まるき(ナマソマルキ)

 根切り、葉打ちの終えた大麻茎を生麻(ナマソ)といい、これを直径30cm程の束にまとめます。その後規格の長さに合わせて押し切りで先端を切り落とします。

湯かけ

 

 収穫した生麻を鉄砲釜で茹でます。

 

 鉄砲釜は煙突状の鉄製の筒で、湯を入れる麻風呂に据え付けて使います。しゃぶしゃぶ鍋をイメージしていただけと、その構造が理解しやすいと思います。温度は90℃前後。温度が下がらないように次々と薪を投入し、常に湯が煮えたぎるように作業を行います。

 

 茹であがった大麻の茎は平らに並べて幾度か表裏を返しながら3~4日ほど完全に乾くまで干します。干し上がった茎はキソと呼ばれるようになります。

 

 収穫後すぐに大麻の茎を煮るのは、繊維の輝きが増すためと言われていますが、その他、干し上がった大麻の茎が殺菌されていることから長期保存が可能になるなど様々な利点があります。

床ぶせ・床まわし
 

 乾燥した大麻の茎(キソ)を水に浸した後に発酵させ繊維を剥ぎやすくする作業です。

 

 水に浸し一回転させる作業を「床まわし」、発酵を促す作業を「床ぶせ」といいます。

 

 床まわしに使う用具を「麻船(オブネ)」、床ぶせをする場所を「麻床場(オトコバ)」といいます。

 

 麻床場は濡れたキソにムシロをかけ温度を

上げ2~3晩ほど寝かせます。

 

 発酵が過ぎれば腐ってしまい、発酵が進まなければ皮が上手く剥げなくなります。精麻の品質をわける重要な工程で、熟達した経験と勘が必要になります。

麻はぎ

 

 発酵が進み表皮が緩くなった塩梅を見計らって麻はぎをおこないます。茎の根本から3~5cm程度のところから折り、一気に繊維を剥ぎ取ります。この段階で大麻繊維の出来不出来が分かり、麻はぎをやりながら等級別に仕分けます。

 

 剥いだ皮は天地を揃え、鏡に映した「の」の字を描くように重ねていきます。

麻挽き

 

 麻はぎをした繊維から不純物を取り除く作業です。栃木では基本女性の仕事です。

 

 手ひきを行っていた当時はヒキゴと呼ばれる栃木県独自の道具を用い、麻ひき箱の上で繊維かすを削りとります。

 この麻の手ひきは、群馬県の「岩島麻保存会」が中心となり、日本民族工芸技術保存協会・群馬県神社庁・東吾妻町教育委員会の後援により15人の会員によって、貴重な伝統技術として守られています。

 

 栃木では現在、麻ひき機(写真下)と呼ばれる機会で麻ひきしています。機械といえどもシンプルな構造で、こちらもまた熟練の技術を要します。

 

 この時にでる麻のかすが栃木では「麻垢」(オアカ)、他の地域では「麻くそ」(オクソ)と呼ばれ、川で綺麗に洗い出荷させれいました。用途は麻綿や麻スサなど。古い時代はこれが女性の生理用品としても用いられていました。

麻掛け(オカケ)

 

 麻ひきの終えた大麻繊維を室内で乾燥させる作業です。

 

 精製した繊維は「精麻」と呼ばれるようになります。精麻を干す竿を「麻掛竿(おかけざお)」といい、一枚一枚重ならないように干していきます。

 

 竿いっぱいに干された精麻はシャンパンゴールドに上品に輝き、壮観な光景です。

出荷

 

 精麻は400匁モンメ(1.5kg)ごとに束ね、束ねた麻を島田(シマダ)といいます。シマダを10束ねたものが四貫(15kg)になり、取引の単位の「一把(イッパ)」になります。

取引は「麻買い(アサカイ)」と呼ばれる仲買人を通して全国に流通していました。

おわりに

 大麻草は、丈夫な植物であまり土地を選ばず、化学肥料/農薬を使わなく

ても栽培が容易と言われております。事実「産業用向け」の栽培は他の

作物と比べて農薬の使用量も少なく又栽培も難しいものでありません。

しかしながら、質の高い「精麻」を得るためには、長い経験と試行錯誤

のもとあみだされた日本又その地域独自の栽培方法と精麻加工技術が必要

です。

 

 かつては日本全国で栽培されていた麻。群馬県(岩島麻)には「保存文化・技術」としてかろうじて後世に繋いでいくしくみがありますが、麻の栽培/精麻加工が「農業」として成立しているのは栃木県だけとなってしまいました。その栃木県でも農家の高齢化が進み存続が危ぶまれております。業として成立しなものは本当の意味で残っているとは言えません。全国の神社が「国産の精麻」を必要としております。何千年と守り磨き繋いできた日本の麻文化。栃木だけの問題でなく、日本の問題です。